LCCO₂とは:建築物のライフサイクルカーボンを実務者向けに整理

LCCO₂(エルシーシーオーツー)は、建物の一生を通じて出るCO₂等の量のことです。2026年7月に建築物省エネ法が改正され、一定規模以上の建物では、LCCO₂の評価結果を国に届け出る制度が始まります。
この記事では、LCCO₂の意味と算定する範囲、制度で何が求められるか、算定の進め方を整理します。
要点
- LCCO₂=建物の一生分のCO₂等の排出量:資材の製造・施工から、使用、修繕・更新、解体までを合計する
- 建てるときの排出も数える:省エネで減らせる「使うときの排出」だけでなく、資材や工事の排出(エンボディドカーボン)が対象になる
- 2028年度にかけて制度が始まる:改正建築物省エネ法により、5,000㎡以上の事務所などは着工前の届出が義務になる。建築士には、建築主への説明などの協力が求められる
1. LCCO₂の意味
国の資料では、ライフサイクルカーボン(LCCO₂)を、建物の資材製造・施工から解体に至るまでのライフサイクル全体を通じたCO₂等の排出量と定めています。
ポイントは「CO₂等」です。CO₂だけでなく、メタンなど他の温室効果ガスも、CO₂に換算して合算します。
これまで建物の脱炭素といえば、断熱や高効率設備で使うときのエネルギーを減らすことが中心でした。LCCO₂は、それに加えて、建てるとき・直すとき・壊すときの排出も含めて、建物全体を一つの数字で見る考え方です。
2. 算定する5つの段階
LCCO₂は、建物の一生を5つの段階に分けて算定します。建築GX・DX推進事業でも、この5つに分けて算定できるツールを使うことが条件になっています。
| 段階 | 中身 | 主なデータ |
|---|---|---|
| 資材製造 | 建材・設備の原料調達から製造までの排出 | 資材の種類と数量、CO₂原単位 |
| 施工 | 資材の輸送、現場での工事に伴う排出 | 輸送距離、建設機械の燃料など |
| 使用(資材関連) | 修繕・更新で取り替える資材の排出 | 更新周期、更新する資材の数量 |
| 使用(光熱水関連) | 冷暖房・照明・給湯などのエネルギー消費に伴う排出 | 省エネ計算の結果など |
| 解体 | 解体工事と廃棄物の処理に伴う排出 | 解体する資材の数量 |
「CO₂原単位」とは、資材1単位(1トン、1㎥など)あたりのCO₂等の排出量のことです。数量×原単位で各資材の排出量を出し、それを積み上げるのが算定の基本です。
3. エンボディドカーボンとオペレーショナルカーボン
5つの段階は、大きく2つに分けて呼ばれます。
| 呼び方 | 含む段階 | 減らし方の例 |
|---|---|---|
| エンボディドカーボン | 資材製造、施工、使用(資材関連)、解体 | 低炭素な資材の選択、躯体の再利用、長寿命化 |
| └ うちアップフロントカーボン | 資材製造、施工 | 竣工までに確定するので、設計段階で決まる |
| オペレーショナルカーボン | 使用(光熱水関連) | 断熱、高効率設備、再生可能エネルギー |
エンボディドカーボンは、資材や工事に「埋め込まれた」排出という意味です。その一部で、竣工までに出てしまう分をアップフロントカーボンと呼びます。
オペレーショナルカーボンは、建物を運用するときのエネルギー消費による排出です。省エネ計算で扱ってきたのは、主にこの部分です。
省エネが進むほど、オペレーショナルカーボンは小さくなります。そのぶん、建物全体に占めるエンボディドカーボンの割合が大きくなるため、資材と工事の排出をどう減らすかが次の論点になっています。
4. 制度で何が求められるか
2026年7月31日に公布された改正建築物省エネ法(改正後の名称は「建築物のエネルギー消費性能の向上及び脱炭素化の促進に関する法律」)で、ライフサイクルカーボンの評価制度が設けられました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 評価の実施 | 建築主は、ライフサイクルカーボンの評価に努める(努力義務) |
| 届出 | 政令で定める用途・規模の建築物は、建築主が着工の14日前までに評価結果を国に届け出る(義務)。国の資料では5,000㎡以上の事務所の新築・増改築が示されている |
| 建築士の役割 | 設計を委託された建築士は、評価に必要な事項を建築主に説明するなど、必要な協力を行う |
| 算定のルール | 国が「建築物ライフサイクルカーボン評価の指針」として統一の算定ルールを定める |
| 認証・表示 | 評価結果と省エネ性能について、登録機関による第三者認証を受け、標章を表示できる |
| 施行 | 評価制度・届出・第三者認証は、公布から2年以内に施行(国は2028年度の制度開始を目指している) |
届出の義務がかかるのは大規模な建物に限られますが、建築士の説明・協力は、より広い範囲の建物が対象になる見込みです。中小の設計事務所にとっても、建築主から「この建物のLCCO₂は?」と聞かれる場面は増えていきます。
5. 算定の進め方
算定ツール
国内では、J-CAT(建築物ホールライフカーボン算定ツール) が標準的なツールとして使われています。2024年5月に試行版、10月に正式版が公開され、住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)のサイトから無料でダウンロードできます。
J-CATには、目的に応じて簡易算定法・標準算定法・詳細算定法の3つの算定法があります。建築GX・DX推進事業の補助を受ける場合は、標準算定法か詳細算定法を使う必要があります(詳細算定法が推奨されています)。
算定のタイミング
算定する時点は、主に次の3つです。
- 基本設計完了時:仕様が固まりきっていない段階。削減の検討に生かしやすい
- 実施設計完了時(着工時):数量が確定し、届出にも使える段階
- 竣工時:実際に使った資材で算定でき、最も精度が高い
必要になる資料
算定の手間の大半は、資材の数量を集めて整理することにあります。
- 図面(意匠・構造・設備)
- 見積書・内訳明細書(資材の種類と数量)
- 設備機器のリスト
- 省エネ計算の結果(使用段階の光熱水関連に使う)
見積書の科目や品目を、算定ツールの資材区分に対応づける作業が、最も時間のかかる部分です。
6. まとめ
- LCCO₂は、建物の一生(資材製造・施工・使用・解体)を通じたCO₂等の排出量
- 省エネ計算で扱う「使うときの排出」に加えて、資材と工事の排出(エンボディドカーボン)を算定するのが特徴
- 改正建築物省エネ法により、2028年度にかけて届出・説明・認証の制度が始まる
- 算定はJ-CATが標準。手間の中心は、見積書などから資材の数量を整理する作業
算定の費用は、国の補助金でまかなえる場合があります。詳しくは「建築GX・DX推進事業「LCCO₂評価実施型」の使い方」をご覧ください。
この記事は、国土交通省の公表資料(2026年10月時点)にもとづいています。届出の対象となる用途・規模、算定の指針などは、今後の政令・告示で確定します。
