ホールライフカーボンとは:ライフサイクルカーボン・LCCO₂・エンボディドカーボンとの違い

目次
建物のCO₂を語るときに出てくる、ホールライフカーボン、ライフサイクルカーボン、LCCO₂、エンボディドカーボン、アップフロントカーボン、オペレーショナルカーボン。似た言葉が多く、資料によって使い方も違うため、混乱しやすいところです。
この記事では、それぞれが建物の一生のどの範囲を指すかを、一枚の図で整理します。
要点
- ホールライフカーボン=ライフサイクルカーボン(LCCO₂):どちらも、資材製造から解体までの建物の一生分の排出を指す
- エンボディドとオペレーショナルは、その内訳:資材と工事の排出がエンボディド、運用のエネルギー消費による排出がオペレーショナル
- アップフロントは、エンボディドのうち竣工までの分:設計段階でほぼ決まるので、削減の検討で特に重視される
1. 用語の関係を一枚で見る
| 用語 | 範囲 | ひとことで |
|---|---|---|
| ホールライフカーボン | A1〜C4 | 建物の一生分の排出(海外での呼び方) |
| ライフサイクルカーボン(LCCO₂) | A1〜C4 | 建物の一生分の排出(日本の制度での呼び方) |
| エンボディドカーボン | A1〜A5、B1〜B5、C1〜C4 | 資材と工事にかかわる排出 |
| アップフロントカーボン | A1〜A5 | 竣工までに出る排出 |
| オペレーショナルカーボン | B6〜B7 | 運用のエネルギー・水による排出 |
2. ホールライフカーボンとライフサイクルカーボン
結論から言えば、ほぼ同じものを指す、呼び方の違いです。
- ライフサイクルカーボン(LCCO₂):国の制度や補助金で使われる言葉です。国の中間とりまとめでは、建物の資材製造・施工から解体に至るまでのライフサイクル全体を通じたCO₂等の排出量と定めています
- ホールライフカーボン(Whole Life Carbon、WLC):欧州を中心に海外で広く使われる言葉です。国内でも、国の算定ツールJ-CATは、提供元の紹介資料で「建築物WLC算定ツール」と呼ばれています
同じツールが、国土交通省の発表では「ライフサイクルカーボン算定ツール」、提供元の資料では「WLC(ホールライフカーボン)算定ツール」と紹介されていることからも、両者が同じ範囲を指していることが分かります。
実務では、国内の制度・補助金の書類ではLCCO₂、海外の基準や外資系の発注者とのやりとりではホールライフカーボンと使い分けておけば、まず困りません。
3. エンボディドカーボンとオペレーショナルカーボン
建物の一生分の排出は、性質の違う2つに分けて考えます。
エンボディドカーボン
資材の製造、現場までの輸送と工事、修繕・更新で取り替える資材、解体と廃棄物処理にかかわる排出です。資材と工事に「埋め込まれた」排出という意味で、こう呼ばれます。
減らす手段は、低炭素な資材の選択、使う量を減らす設計、躯体の再利用、長く使える仕様の採用などです。
オペレーショナルカーボン
冷暖房、照明、給湯など、建物を使うときのエネルギー消費による排出です。これまでの省エネ基準や省エネ計算で扱ってきたのは、主にこの部分です。
減らす手段は、断熱、高効率な設備、再生可能エネルギーの導入などです。
なぜ今、エンボディドカーボンが注目されるのか
省エネが進んでオペレーショナルカーボンが小さくなるほど、建物全体に占めるエンボディドカーボンの割合は相対的に大きくなります。省エネだけでは減らしきれない部分として、資材と工事の排出に目が向くようになりました。
4. アップフロントカーボン
エンボディドカーボンのうち、資材製造と施工(A1〜A5)、つまり竣工までに出てしまう排出をアップフロントカーボンと呼びます。
アップフロントカーボンには、2つの特徴があります。
- 竣工した時点で確定する:あとから運用で減らすことができない
- 設計段階でほぼ決まる:構造形式、躯体の量、主要な資材の選び方で大きく変わる
このため、削減を考えるなら基本設計の段階で一度算定し、選択肢を比べておくのが効果的です。
5. 日本の5つの段階とEN 15978のモジュール
海外の資料や算定ツールでは、EN 15978(欧州の建物の環境性能評価の規格)のモジュール記号がよく使われます。日本の5つの段階とは、おおむね次のように対応します。
| 日本の段階 | EN 15978のモジュール | 中身 |
|---|---|---|
| 資材製造 | A1〜A3 | 原料の調達、工場までの輸送、製造 |
| 施工 | A4〜A5 | 現場までの輸送、施工 |
| 使用(資材関連) | B1〜B5 | 使用、維持、修繕、交換、改修 |
| 使用(光熱水関連) | B6〜B7 | 運用のエネルギー、水 |
| 解体 | C1〜C4 | 解体、輸送、廃棄物処理、処分 |
| (範囲外) | D | 再利用・リサイクルによる効果 |
モジュールDは、解体後の資材を再利用・リサイクルすることで将来の排出を減らせる効果です。建物の範囲の外で起きることなので、合計には含めず、別に示すのが一般的です。国の中間とりまとめでも、算定は資材製造から解体までを基本としています。
6. まとめ
- ホールライフカーボンとライフサイクルカーボン(LCCO₂)は、どちらも建物の一生分の排出を指す、呼び方の違い
- その内訳が、資材と工事のエンボディドカーボンと、運用のオペレーショナルカーボン
- エンボディドカーボンのうち竣工までの分がアップフロントカーボン。設計段階で決まるので、早めの算定が効く
LCCO₂の算定の範囲や制度の動きは「LCCO₂とは:建築物のライフサイクルカーボンを実務者向けに整理」で詳しく解説しています。
この記事は、国土交通省および住宅・建築SDGs推進センターの公表資料(2026年10月時点)にもとづいています。算定の範囲や方法は、今後国が定める評価の指針で確定します。
